感想を書くためのパピルス

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『スパイダーマン: スパイダーバース』を見て感じたこと (ネタバレあり)

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 久しく映画館には行っていなかったのですが、岡田斗司夫さんのブログに"スパイダーバースをまだ見ていない人は今すぐ見に行け"と書かれていたので、仕事が休みの今日4月7日(日)、県議選の投票を終えたのち、その足で、衣山のシネマサンシャインに向かいました。すごかったです。

 

blog.livedoor.jp

 

 ではここからは、映画を見て自分がグッと来たシーンについて感想を書いていきます。

 (ネタバレありです

 

 

パトカー車内のひし形金網フェンス 

 主人公マイルスの父親は警察官なんですけども、映画の序盤でマイルスが父親と一緒にパトカーで学校へ向かうシーンがあるんですね。車の中で学校のこととか色々話すわけですけど、明らかにマイルスは父親の語り口にうんざりしてる。マイルスと父親の不和を端的に表しているのが、パトカーの運転席と後部座席を仕切るために取り付けられている網掛けのフェンスです。このフェンス、ひし形の金網でできておりまして、そのフェンス越しに話すと、互いの顔にいくつものバツ印が重なっているように見えるんです。特に父親がこのフェンス越しに話すときの画が印象深く観客の心に残るような見せ方になっていました。(漫画『聲の形』におけるバツ印みたいなものですね)

 

スーツのサイズ 

 マイルスの世界のピーター・パーカーが死んで、マイルスはスパイダーマンのグッズショップにスーツを買いに行くんですけど、レジカウンターで「サイズ合わないかも」とその店のオーナーに向かって言うんです。このセリフは、体のサイズのことを言っているんじゃなくて、精神のサイズ、スパイダーマンとしてやっていくだけの器量が自分にはまだない、っていう不安を表しているものなんですが、それに対して店のオーナーは「大丈夫。そのうち合うようになる」と言うんです。一見、不安げな若者を励ますいいシーンなんですが、そう思った瞬間、「返品不可」と書かれた張り紙が見えるようになっています。つまり、オーナーとしてはサイズが合わなかったら返品を受け付ける、なんていう面倒くさいことをしたくないわけです、商売的に。けどそれをそのまま言うのは気が引けるから、かっこよく「(君はまだ若くてこれから体はいくらでも大きくなるんだから)そのうち合うようになる」と言ったんですね。ただ、このセリフ、本質は突いていると思います。実際にマイルスは身体のサイズも精神のサイズも大きくなりました。

 

なぜマイルスの固有能力は透明化なのか 

 エリート校に通っている自分が嫌いなマイルス。普通の学校へ行きたいと彼は口にします。学校でも、トラブルを起こした時にまず気にするのは周囲の目です。集団に埋没していたい。その願望の具現化がマイルスの透明化能力なのではないかと思いました。この透明化、最初は自分の意思では発動できないんです。消えたいと思ったときに消えることができない。学校で目立ちたくないのに悪目立ちしてしまうのと同じです。自分の存在というものをコントロールできていない。終盤は自由自在に透明化を使いこなすのですが、そうなれた理由は、逃げるためや自分を守るためではなく、誰かを助けるための手段として透明化を使い始めたからだと、私は思いました。

 

メイおばさんとのび太のおばあちゃん 

 別の世界からやってきたピーター・B・パーカーがメイおばさんの家を訪れるシーン。メイおばさんは一目見て、目の前の男が別の世界から来たもう一人のパーカーだと気づきます。まるでのび太のおばあちゃんです。未来からやって来たのび太をすぐに受け入れたおばあちゃんと同じ温かさがメイおばさんにもある。そう思ったら、他にも別の世界からスパイダーマンが来てたから、メイおばさんとしては受け入れる準備が万全だったというオチがつきます。でもそれはなんか、脚本の照れ隠しのような気もするんですよ。メイおばさんは何の事前情報がなくても、ピーターなら、他の世界から来た別のピーターであっても、もちろんすぐに気づける。けどそれをそのままやっちゃうと、あまりに感動させようとする匂いがする。その匂いを消すため、先に他のスパイダーマンが来ていたから察しがよかった、ということにしておこうと。そんな感じかなと思います。

 

マイルスの父親代わり

 父親と考えがかみ合わないマイルスの考えをわかってくれるのが、アーロンおじさんです。一方、もう一人、別の世界から来たピーター・B・パーカーもマイルスの父親、みたいな存在になっていきます。この二人から色々と学ぶマイルスですが、当の父親本人からは何かを学ぶということがないんです。でもそれでいいのだと。実利や見返りを求めないのが愛情で、肉親との間には愛情さえあればいいのだと。そう言えば、スパイダーマンも見返りを求めません。何度も何度もニューヨークを救いすぎるほど救ったけれど、私の記憶する限りでは、報酬をよこせと言ったことはただの一度もありません。だからこそ、ピーターパーカーの墓に花を供える人があんなにたくさんいたんだと思います。

 

スイングと走りのハイブリッド

 糸を飛ばしてその糸にぶらさがっての移動をスイングと言います。スパイダーマンなら全員が使える基本技です。マイルスも命がけの実戦の中でこれを習得しました。ただ、スイングできないで逃げ回っていたときはこんなことを言っていました。

 

「走った方が速い」

 

 このセリフなんか引っかかっていたんですけど、終盤、マイルスが後からみんなを追って敵地へ向かうところでのスイングで、このセリフはこういうことだったのかと分かります。もちろんマイルスもかっこよくスイングの連続で夜のニューヨークのビルの間を移動するんですけど、他のスパイダーマンに比べると、スイングしながらも、スイングとスイングの合間を走りでつないだり、スイングの糸は切らないまま道路を走ったりと、走るシーンも多かったんですね。それが彼ならではの移動スタイルだということです。このマイルスがオリジナルスーツを着て、スイングと走りでもって最終決戦の場へ向かうシーンはすごくダイナミックでよかったのでぜひ劇場で見てください。

 

最終決戦マイルスがたった一人のスパイダーマンとして戦うシーン

 キングピンという今回の事件の親玉がいるんですけど、そいつはスパイダーマン6人全員で、ではなく、マイルス一人で倒すんです。なぜ共闘ではなく、一人で戦わせないといけなかったのか。スパイダーマンは本来、この世にたった一人だけだからです。自分の世界を脅かす敵は、一人で倒さないと一人前のスパイダーマンになったとは言えない。つまりはマイルスにとってキングピン打倒はスパイダーマンになるうえでの最終試験だったんです。まあ、Bパーカーだけは自分の世界に帰ることを渋り、代わりにキングピンを倒そうとしますが、それはBパーカーが師匠として、またマイルスの父親代わりとして、マイルスに情け深くなってしまったからですね。親の過保護です。そんな子離れできないBパーカーを力ずくで元の世界に帰せるぐらいマイルスは強くなりました。その実力を見て、Bパーカーも笑みを浮かべて元の世界へ帰って行きます。

 

  キングピンと戦っているとき、マイルスの父親がその現場に来てしまいます。これは序盤、ピーターパーカーがグリーンゴブリンと戦っている場面に居合わせたマイルスと同じ構図です。マイルスは戦いを傍観し守ってもらう立場から、自らが戦い、一般人を守る立場になったわけです。

 

最後に 

 色々書いたんですが、とても個人的な感想を言わせてもらうと、スパイダーウーマンことグウェンがすごくかっこよくて、めっちゃかわいいです。吹き替えで見たんですけど、声優さんもめちゃくちゃうまくて大満足でした。自信をもっておすすめできる映画です。